最高裁判所第一小法廷 昭和43年(あ)551号 決定 1968年12月05日
本店所在地
名古屋市中区栄二丁目四番七号
パチンコ遊技場、大衆食堂、喫茶店経営
株式会社 鈴木商会
右代表者代表取締役
加藤美恵子
本籍
名古屋市中区栄二丁目四〇九番地
住居
同市同区栄二丁目四番七号
会社代表取締役
加藤美恵子
大正一五年三月一五日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和四三年二月二七日名古屋高等裁判所の言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人相沢登喜男の上告趣意第一点、第二点は、単なる訴訟法違反の主張であり(第一点所論の各書証は、いずれも公判期日において弁護人の同意を経て適法な証拠調が行なわれていることは、記録に徴し明らかである。)、同第三点は、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、栽判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)
昭和四三年あ第五五一号第一小法廷
上告趣意書
法人税法違反 被告人 株式会社 鈴木商会
同 加藤美恵子
右の者等に対する頭書被告事件の上告趣意左の如し
第一点原審判決は採証の法則に違背する違法な判決とす
原審判決は事実認定の証拠として、
1 加藤吉朗に対する大蔵事務官の質問てん末書
(イ) 昭和三十九年十月三日付
(ロ) 昭和三十九年十月二十七日付
2 植村輝三に対する大蔵事務官の質問てん末書
を夫々証拠に引用し居るも前記各書証は被告人側に於て証拠とすることにつき同意したる事実なきに拘らず、之れが証拠となしたる違法が存す
第二点原審判決は証拠不充分の判決とす
一、前記の如く加藤吉朗に対する
(イ) 昭和三十九年十月三日付
(ロ) 同年同月二十七日付
各大蔵事務官に対する質問てん末書が証拠能力なき本件については、その犯則期間中の脱税金額算出につき計算が困難なるのみが、他の証拠を以てするも、未だ総所得金額の認定は勿論、所得秘匿の手段方法及びその金額を算定すること能わざるを以て、証拠不充分の判決と云わざるを得ない、
二、被告人加藤美恵子に対する各書証として、
1 同人の上申書
2 同人の大蔵事務官に対する質問てん末書
3 同人の検察官に対する供述調書
は存在するも、右各証拠は所謂被告人の自由なれば、犯罪事実認定に際しては、之れが証拠を補強する証拠が必要なるに拘らず、此の補強証拠中一番重要視せられる右加藤吉朗の前記各証拠が引用出来ぬ本件は証拠不充分の識りを免れ得ない
第三点原審判決量刑は著しく重きに失するものとして破棄せらるべきものとす
一、被告人加藤美恵子は、株式会社鈴木商会の代表取締役であるが、同社が設立せられた昭和二十八年一月頃から同人の実父である。
加藤文三郎
が代表取締役となり、昭和三十九年八月二十日に至るまで、約一〇年余同人の権限内に在りたるものにして、本件犯則行為も、右文三郎の代表取締役当時の案件である。
二、一件記録に顕われたる各供述によれば、右文三郎代表当時も被告人美恵子が取締役として、その業務統轄の実権を握り、本件違反行為の基本方針も総べて前記美恵子の指示によるものと認定せられ易い証拠関係に在るが、等しく株式会社と雖も
所謂 同族会社
にして、その役員は被告人の実父又は従業員にして、此等の役員が本件脱税計画に関与することなく、被告人美恵子の単独行為とは認め難い、
三、特に、本件犯則事件による利得を被告人美恵子個人が取得した事実はなく、却つて借入金名下に前記文三郎又は実弟吉朗等が持ち去り、因つて土地、家屋等の購入資金に当てて居る事実関係より看るならば、被告人美恵子は単なる会社役員責任としての追及は免がれ得ないが、本件の主動者としての認定は事実の誤認があり、且つ延いては情状に於て影響があるものと思料す
四、要は、被告人美恵子が加藤一家の資産蓄積のための犠牲者となり、本件犯則による利得金は悉く実父等が利用し
1 国際土地株式会社
2 東名土地株式会社
3 加藤土地建物株式会社
4 国際ゴルフ株式会社
5 東名ゴルフ株式会社
等の設立準備資金の一部に引当てられた疑いも存するを以て、被告人美恵子のみ体刑の処分は酷に失するものと云うべし
五、然しながら、本件起訴後、判決言渡に至るまで前記親子が協力し、本件犯則金は勿論、重加算税、利子及びこれに伴う事業税、市民税等総べて完納し、心から悔悟の意を表するのみか、尓後の各申告に際しては真面目に納税して居る情状は、本刑は勿論、罰金刑に就いても、それぞれ斟酌せらるべきに拘らず、之等の事情を看過し
1 被告人美恵子に対し体刑
2 会社に対し罰金四百万円
3 被告人美恵子に対し罰金二百五十万円
を言渡したる原審判決量刑は著しく重きに失するものとして破棄せらるべきものと信す
援用証拠
一件記録
右陳述す
昭和四三年四月二日
右被告人両名弁護人
相沢登喜男
最高裁判所 御中